はじめに

料理に携わって早半世紀になります。花嫁修行という軽い気持ちで習い始めた料理でしたが、飯田深雪(1903~2007)先生との出会いは、私を大きく変えてくれました。教えていただくこと全てが「目から鱗」で、驚きと感動の連続でした。研究科を経て、将来“食”に携わる仕事に就きたいという思いで深雪スタジオに就職し、貴重な経験を積ませていただきました。外交官婦人としてのご経験から、如何に心を込めたおもてなしが世界平和につながるかということを、お料理を通して教えて頂きました。ロシアの方々をお招きした時は、鏡をバイカル湖に見立て泳いでいるスワンをシュウクリームで作り、おもてなしなさった光景を思い出します。

結婚後、福島県生まれアメリカ育ちの主人に、山菜料理、アメリカ料理を教わることも多く、住む土地によってこんなにも“食”の違いがあるのかと実感しました。当時住んでいた東京の自宅で念願の小さな料理教室をスタートしましたが、小さな台所という意味だよと言って、主人が『キチネット・サチ』と名付けてくれました。同時に辰巳芳子先生の門をたたき、素材の本質を生かすことから料理に向かう気構えを学びました。その後もいろいろな先生方にお教えいただきました。還暦を間近にしてル・コルドン・ブルー東京校に通い、料理と菓子部門を卒業しグラン・ディプロマを取得できましたのは大きな喜びであり、主人の寛大な理解があってこそと感謝しました。

逗子に移住後、鎌倉婦人子供会館主宰の料理教室を17年間勤めさせていただきました。献立を決める時はまず日本の四季を思い、和、洋、中華料理、デザートに至るまで、旬の素材を生かして美味しく無駄なく調理する事をモットーに、お客様をお招きする時にも、普段の家族の食事にも役立つように心がけてまいりましたので、いつしか「四季のおもてなし」がタイトルになりました。

今は何でも美味しいものがいただける世の中になりましたが、主人はお客様をおもてなしする時は、わが家の手料理が一番という信念の持ち主でしたので本当に鍛えられました。七夕の主人のお誕生日とクリスマスは我が家の二大イベントでしたが、それ以外も年中人が集まっていました。皆様がお帰りになる時の笑顔が何よりのご褒美で、主人も私もほっこりした気持ちにさせて頂きました。10冊以上に及ぶ「GUEST BOOK」は我が家の歴史であり、宝物になりました。

 


糠澤 佐知子
Sachiko Nukazawa

料理研究家 ・ KITCHENETTE SACHI主宰

娘時代に修行したお料理とお菓子作りを生かそうと、結婚を機に自宅のキッチンで小さなお料理教室『KITCHENETTE SACHI(キチネット・サチ)』をスタート。以来約50年、現在も逗子の海のそばの自宅のキッチンでお料理教室を続けている。

•経歴
雙葉高等学校卒業、慶應義塾大学文学部卒業、慶應義塾大学外事部(国際センター)及び秘書課勤務 深雪スタジオ勤務
•ル・コルドン・ブルー東京校にて グラン・ディプロマ(料理、菓子)取得